湯治の癒しを日常に。
別府・鉄輪温泉発のブランド
〈HAA〉池田佳乃子さん
広告代理店勤務から、
別府と東京の2拠点生活に
別府市の鉄輪(かんなわ)温泉で、ライフスタイルブランド〈HAA〉を起業した池田佳乃子さん。社名の読み方は、「は~」。温泉に浸かったときに思わず漏れる、あのひと声が由来です。会社のミッションも、「日常に、深呼吸を届ける」。日常のなかで、自然と「は~」が生まれるようなプロダクトや企画をつくり出しています。
池田さんは別府市出身。大学進学をきっかけに上京し、卒業後は東京の映画会社に就職。その後転職した広告代理店で、途上国で地域支援に携わる日本人のドキュメンタリー番組の制作に携わったことをきっかけに、「地域と関わる仕事がしたい」と思うようになったといいます。
さらに、ふるさと納税のマーケティングを担当したことで、より一層「ひとつの地域と関わっていきたい」という思いが強まり、夫にも相談。そのときにかけられた言葉が、その後の生活を一変させました。
「せっかく別府っていうふるさとがあるんだから、そこで何かやったらいいんじゃない?」

当時は結婚して半年が経った頃でしたが、夫の提案をすっと受け入れることができたと言います。
「東京と大分を行き来するような、型にはまらない、自分たち夫婦のライフスタイルをつくっていくのも、ありかなって。“チャレンジ”というほど大げさではなく、『じゃあ、やってみよう』という感じでした」
ちょうど同時期に、別府市で観光や地域産業に携わる一般社団法人の職員募集があり、そこに就職できたことも後押しに。「2拠点生活」という言葉がまだ一般的でなかった2018年の春、東京と別府を行き来する生活が始まりました。

「あらためて地元、別府を知ろう」と市内を歩くなかで訪れた鉄輪温泉で聞いたのが、「貸し間」の衰退を心配する地元の人たちの声。鉄輪温泉は、古くから湯治場として親しまれてきました。その湯治の際に低価格で長期滞在できるのが貸し間。しかし近年、その貸し間はどんどん少なくなっています。
「貸し間が減って、湯治場の風景がなくなってきているけれど、このまちの価値ってそこにあるから、貸し間を絶やしたくないんだよね、という話を、いろいろな人から聞いたんです」

その後、貸し間を再生するための会議にも参加。そこで出た「コワーキングスペースをつくりたい」という案を、池田さんが実践することになります。
当時、別府にはまだコワーキングスペースはありませんでした。鉄輪温泉には100円で入れる地域の温泉が点在し、貸し間もありますが、リモート会議ができる高速Wi-Fiまでは完備されていなかったそう。
「コワーキングスペースがあれば、仕事をしながら長期滞在して、(現代風の)湯治をする人が増えるのでは?」と考え、2019年4月に、温泉入り放題のコワーキングスペース〈a side 満寿屋〉がオープンしました。

しかしその翌年、コロナ禍に。リモートワークも一般化し、2拠点生活をする人も増えてきました。「ワーケーション」という言葉も生まれ、温泉が入り放題のコワーキングスペースには、いつの間にか東京などから多くの人が訪れるようになっていました。

