大分には、人間らしい暮らしがある。
俳優・財前直見
大分県出身の俳優・財前直見さんは、子育てをきっかけに2007年から故郷にUターン移住。今は仕事のたびに東京と行き来しながら、普段は家族と一緒に大分での暮らしを満喫しています。
週末には家族で管理する杵築(きつき)市の畑を訪れ、旬の作物を味わったり、さまざまな加工品をつくったりして大分の魅力を体感しているそう。
生まれ育った大分の魅力から、移住のきっかけ、自然の恵みと共にある財前家ならではの暮らしのヒントまで、2回にわたってたっぷりお届けします。
生まれ育った大分で子育てをしようと思った理由
「杵築市のこの場所には父方の実家があったのですが、母がここで出産したこともあり私にとっても生家なんです。その後、小学3年生までは父親の仕事の関係で兵庫県姫路市に住み、小学4年生から高校を卒業するまで大分市で育ちました」
子どもの頃は、週末ごとに自身の実家を訪れては畑の手入れをするお父さんについて行き、畑仕事や田植えの手伝いをしていたという財前さん。
「ぬかるんだ田んぼに足がハマって抜けなくなったり、夏には用水路を石で堰き止めてプールがわりにして遊んだり、突然、蛇が出てきてギャーギャー騒いだりもしていましたね。そんな子どもの頃の思い出がたくさん残っています」
シリアスからコメディまで、テレビやスクリーンで見せる俳優の表情とはひと味違う屈託のない笑顔で、幼い頃の思い出を話してくれました。長男・凛太郎さんの出産をきっかけに、2007年、故郷である大分に生活の拠点を移した背景には、どんな理由があったのでしょうか?
「東京でお食い初めをするとき、スーパーに尾頭つきの鯛を買いに行ったら、『予約が必要です』と言われて驚いたんです。大分なら普通に店頭に並んでるだけに、なんだか寂しいなと思って」
以来、大分に戻ることを真剣に考え始めたという財前さん。
「ここでなら、両親がつくる採れたての野菜をいつでも息子に食べさせてあげることができるし、豊かな自然環境も温泉もある。一緒にいれば、じいじ(父・紘二さん)とばあば(母・カツ子さん)が深い愛情を注いでくれますしね。私がそうしてもらったように、自分の手で愛情をかけて育てたい、と思ったんです」
当時の財前さんは芸能界の第一線で活躍し続け、仕事も順風満帆。それでも、生活をガラリと変えることに迷いはなかったと言います。
「息子が産まれたときにまず考えたのは、この子をどう育てたいかでした。東京にいると、私はよくも悪くも俳優として扱われます。マネージャーが車で送迎してくれて、買い物にも連れて行ってくれたりと守られた環境で生きている。そういう姿を、息子が見て当たり前と思ってほしくないぁと思ったんです」
「自分の足でちゃんと立って生きる母親でありたい」と考えた財前さん。
代表作にも恵まれ、俳優業にもひと区切りついたタイミングであったことも後押ししました。息子さんにしっかり寄り添いながら、今度は子育てを楽しもうと決意します。
大分では俳優ではなく、ひとりの母親として暮らすことができる……それが財前さん自身にとっても心地がよかったとも。
「変な言い方かもしれませんが、実家に子どもを連れて戻ってきたら、居心地がよくてずっと居座っちゃった、みたいな感じです(笑)。近所の人も、私が小さい頃から知っている方たちばかりなので安心ですし、『あ、帰ってきたんだ。おかえり』みたいな感覚でまったく違和感がなかったですね」