有機農業のまち臼杵市
〈うすき皿山〉で味わう
極上の蓮料理と〈ほんまもん農産物〉
大分県東南部に位置する臼杵市。臼杵城の城下町として栄え、武家屋敷や南蛮文化の名残が見られる風情あるまち並みが広がるほか、古くから農業や漁業、醤油・味噌などの醸造業も盛んな地域です。
そしてこの地が蓮(はす)のまちでもあることをご存知ですか? 2000年にボランティアグループが植えた蓮畑が根づき、最盛期にはさまざまな催しも開催されています。蓮の花が咲き誇る初夏のある日、「蓮づくしの料理が楽しめる会がある」と聞き、〈うすき皿山〉を訪ねました。
蓮の名所で、蓮づくしを堪能
「臼杵焼」の工房とギャラリー、喫茶室が併設された〈うすき皿山〉。ここでは夏の間、蓮の開花に合わせて「蓮を愉しむ会」が催されます。蓮の花、根、実、葉、そして香りまで。蓮の魅力を存分に堪能できる野菜中心の創作料理を、臼杵焼の器に盛りつけたコースで楽しめるという試みです。
会は、1杯のお茶から始まります。ジャスミン茶を使った自家製コンブチャが注がれたゴブレットの中に、鮮やかな花びらがひらり。蓮の茎のストローを通してスーッと喉を潤すと、繊細な蓮の香り、神秘的な蓮の生命力が伝わってくるようです。
「“象鼻杯(ぞうびはい)”という、蓮の葉を酒杯に仕立てたものがあります。葉と茎がつながる部分に穴を空け、葉を高く掲げて長い茎からお酒をいただく古代中国の暑気払いのひとつです。飲む姿が象の鼻に似ていたことからその名がついたといわれています」と、ひと皿ひと皿、蓮にまつわる物語や料理の背景を説明してくれるのは、この会を主催する宇佐美友香さん。
「次は、蓮の葉に光る朝露を表現したひと皿です。臼杵の郷土料理の胡麻豆腐に、さっと湯通しした水蓮根、蓮根のすり流し、花穂じそを散らして、仕上げに青カボスの皮で香りづけをしています」
臼杵の胡麻豆腐は、炒らずに白の剥き胡麻を練り上げるのが特徴。胡麻豆腐特有のしつこさがなく、トロッと柔らかな食感と、鼻腔に広がる胡麻の香りがたまりません。シャキシャキっとした蓮根の歯触りとのコントラストも楽しめます。
味はもちろん、見た目も美しい友香さんの料理はうっとりするものばかり。多層的かつ繊細なソースや素材の構成に加え、地元の有機野菜ひとつひとつの味わいが本当に濃厚だから、野菜がメインとは思えないほどの充実感を味わえます。食べるのがもったいな~い! なんて思いとは裏腹に、ひと口箸をつけると、気づいた頃にはお皿は空に。
蓮づくしの会も、いよいよクライマックスです。とうもろこしの冷製スープ、海老と蓮根の湯葉包みに続き、艶やかな蓮の花びらとともに運ばれてきたのは、蓮の葉で餅米を蒸した「蓮飯」です。
「これはベトナムの宮廷料理“コムセン”をアレンジした、蓮の葉の蒸しご飯です。葉、蓮根、蓮の実、花の香りを余すところなく味わっていただけます。花弁が開くように広げて、温かいうちにどうぞお召し上がりください」
葉を広げるたび、ふわりと甘やかな蓮の香りが漂います。鶏の皮をじっくりローストした手づくりの鶏油で炊いたご飯は、旨みたっぷり。濃厚に凝縮された鶏の味わいを、蓮の葉のほんのりとした苦味が爽やかに包み込み、蓮の香りが甘く軽やかな余韻を残します。
13品の蓮づくしを締めくくるのは、友香さんのお手前でいただく花茶です。ひと際大きな蕾を前に、ゆっくりと湯を注ぎながら一枚一枚花びらを開いていくと、やがて蓮は大輪の花を咲かせます。
「蓮は咲き損じがない花ともいわれています。泥の中からでも皆、美しい花を咲かせ、平等に散っていきます。それは人と同じですよね。そして蓮には体の中の代謝を促し、洗い流すデトックス効果があるといわれていますので、暑さと疲れが溜まった夏にいただくのにとても適しているんです」
友香さんの優雅な所作と匂い立つ蓮の香りに包まれていると、まるで桃源郷にでも来てしまったかのような非日常感に、しばし時が経つのを忘れてしまいました。