蓮の葉で餅米を蒸した「蓮飯」と緑茄子の味噌汁
連載|おおいた食手帖

有機農業のまち臼杵市
〈うすき皿山〉で味わう
極上の蓮料理と〈ほんまもん農産物〉

Posted 2024.08.29
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大分県東南部に位置する臼杵市。臼杵城の城下町として栄え、武家屋敷や南蛮文化の名残が見られる風情あるまち並みが広がるほか、古くから農業や漁業、醤油・味噌などの醸造業も盛んな地域です。

そしてこの地が蓮(はす)のまちでもあることをご存知ですか? 2000年にボランティアグループが植えた蓮畑が根づき、最盛期にはさまざまな催しも開催されています。蓮の花が咲き誇る初夏のある日、「蓮づくしの料理が楽しめる会がある」と聞き、〈うすき皿山〉を訪ねました。

〈うすき皿山〉の外観

蓮の名所で、蓮づくしを堪能

「臼杵焼」の工房とギャラリー、喫茶室が併設された〈うすき皿山〉。ここでは夏の間、蓮の開花に合わせて「蓮を愉しむ会」が催されます。蓮の花、根、実、葉、そして香りまで。蓮の魅力を存分に堪能できる野菜中心の創作料理を、臼杵焼の器に盛りつけたコースで楽しめるという試みです。

会は、1杯のお茶から始まります。ジャスミン茶を使った自家製コンブチャが注がれたゴブレットの中に、鮮やかな花びらがひらり。蓮の茎のストローを通してスーッと喉を潤すと、繊細な蓮の香り、神秘的な蓮の生命力が伝わってくるようです。

蓮の茎のストローが刺してある、自家製コンブチャが注がれたゴブレット
コンブチャの酸味と、ジャスミン茶ならではのグレープ香のような爽やかさが鼻腔を抜けます。

「“象鼻杯(ぞうびはい)”という、蓮の葉を酒杯に仕立てたものがあります。葉と茎がつながる部分に穴を空け、葉を高く掲げて長い茎からお酒をいただく古代中国の暑気払いのひとつです。飲む姿が象の鼻に似ていたことからその名がついたといわれています」と、ひと皿ひと皿、蓮にまつわる物語や料理の背景を説明してくれるのは、この会を主催する宇佐美友香さん。

宇佐美友香さん
〈USAMI〉主宰の宇佐美友香(うさみゆか)さん。臼杵市産の野菜を使ったお弁当の販売や、ケータリングなどの活動のほか、〈うすき皿山〉の喫茶室で季節のお菓子を提供しています。

「次は、蓮の葉に光る朝露を表現したひと皿です。臼杵の郷土料理の胡麻豆腐に、さっと湯通しした水蓮根、蓮根のすり流し、花穂じそを散らして、仕上げに青カボスの皮で香りづけをしています」

大きな蓮の葉を器にした胡麻豆腐
蓮根のすり流しが、まさに葉の上で朝日を浴びて光る水滴のようです。

臼杵の胡麻豆腐は、炒らずに白の剥き胡麻を練り上げるのが特徴。胡麻豆腐特有のしつこさがなく、トロッと柔らかな食感と、鼻腔に広がる胡麻の香りがたまりません。シャキシャキっとした蓮根の歯触りとのコントラストも楽しめます。

「白和最中と野菜のブーケ」の2品
「白和最中と野菜のブーケ」。中津市耶馬溪の無農薬米を使った手づくり最中は、サクッと軽い食感で米の旨みがとても濃厚。いちじくの白和えとともにデザート感覚で楽しめます。ブーケのようにあしらわれたベビーリーフやハーブは、自家栽培で採れたものも使います。ニラの花、アリウムスター、春菊、ルッコラ、ロケットセルバチコなど、どれもベビーサイズなのにこれまた濃厚な香りと味わいが口の中いっぱいに広がります。臼杵焼の器は〈銀彩舟板皿〉。
「夏野菜のテリーヌ」
「夏野菜のテリーヌ」。器は、フランスのプロダクトデザイナー、サラ・ルーセルとコラボした、朝顔をモチーフにした新作〈グロリアプレート〉。

味はもちろん、見た目も美しい友香さんの料理はうっとりするものばかり。多層的かつ繊細なソースや素材の構成に加え、地元の有機野菜ひとつひとつの味わいが本当に濃厚だから、野菜がメインとは思えないほどの充実感を味わえます。食べるのがもったいな~い! なんて思いとは裏腹に、ひと口箸をつけると、気づいた頃にはお皿は空に。

大葉で包まれた「苔寿司」
臼杵の郷土料理、あじ寿しをアレンジした「苔寿司」。苔に見立てた大葉の中には、昆布締めしたアジ、カボスの酢飯、ミョウガ、新生姜が潜んでいます。蓮の葉に落ちた水滴を、ポン酢のジュレで表現。器は〈蓮葉板皿〉。
「海老と蓮根の湯葉包み」
「海老と蓮根の湯葉包み」。蓮の葉をそのまま写しとった〈蓮葉鉢〉の器は、静かな存在感を放ちます。

蓮づくしの会も、いよいよクライマックスです。とうもろこしの冷製スープ、海老と蓮根の湯葉包みに続き、艶やかな蓮の花びらとともに運ばれてきたのは、蓮の葉で餅米を蒸した「蓮飯」です。

蓮の葉で餅米を蒸した「蓮飯」
蓮の葉を広げると、中から餅米、蓮の実、蓮根が現れます。器は〈透彫唐草皿〉。

「これはベトナムの宮廷料理“コムセン”をアレンジした、蓮の葉の蒸しご飯です。葉、蓮根、蓮の実、花の香りを余すところなく味わっていただけます。花弁が開くように広げて、温かいうちにどうぞお召し上がりください」

葉を広げるたび、ふわりと甘やかな蓮の香りが漂います。鶏の皮をじっくりローストした手づくりの鶏油で炊いたご飯は、旨みたっぷり。濃厚に凝縮された鶏の味わいを、蓮の葉のほんのりとした苦味が爽やかに包み込み、蓮の香りが甘く軽やかな余韻を残します。

「緑茄子の味噌汁」
「緑茄子の味噌汁」。とろりとした緑茄子とシャキッとしたオクラの食感が絶妙な、夏らしい碗。器は〈黒碗〉。
花茶に湯を注ぐ友香さん
中国茶のお手前も学んでいる友香さん。コースの締めは、華やかな花茶で蓮の余韻を楽しみます。

13品の蓮づくしを締めくくるのは、友香さんのお手前でいただく花茶です。ひと際大きな蕾を前に、ゆっくりと湯を注ぎながら一枚一枚花びらを開いていくと、やがて蓮は大輪の花を咲かせます。

花びらを一枚一枚丁寧に開いている
蕾にたっぷりお湯を注ぎ、花びらを一枚一枚、丁寧に開いていきます。器は〈フルーツスタンド〉。

「蓮は咲き損じがない花ともいわれています。泥の中からでも皆、美しい花を咲かせ、平等に散っていきます。それは人と同じですよね。そして蓮には体の中の代謝を促し、洗い流すデトックス効果があるといわれていますので、暑さと疲れが溜まった夏にいただくのにとても適しているんです」

雄しべにゆっくりお湯をかける様子
真ん中の黄色い部分が雌しべで、その周りを囲むのが雄しべ。雄しべの花粉が香りの元になるので、花粉を湯に回すようにレンゲでゆっくりお湯をかけていきます。花びらが完全に開き、鮮やかだったピンク色が熱でほんのり薄紫色に変わり、時間の経過とともに花の香りもより濃厚に。

友香さんの優雅な所作と匂い立つ蓮の香りに包まれていると、まるで桃源郷にでも来てしまったかのような非日常感に、しばし時が経つのを忘れてしまいました。


キッチンで蓮を準備する宇佐美友香さん
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