有機農業のまち臼杵市
〈うすき皿山〉で味わう
極上の蓮料理と〈ほんまもん農産物〉 | Page 3
臼杵市全体で有機栽培を推奨。
目指せ、“100年ごはん”
海、山、里の豊かな風土を有する臼杵市は、行政をあげて有機農業が推奨されている、全国でも稀な地域です。新しく有機農業を志す移住者や地域おこし協力隊など、「有機の里うすき」を目指す活動が広がっています。
その一環として、臼杵市は草木8割、豚糞2割を主原料とした〈うすき夢堆肥〉を製造する〈臼杵市土づくりセンター〉を2010年に開設。無化学合成農薬・無化学肥料の野菜づくりを市が推進し、「家族みんなが、新鮮で安全な地元の食材を使った、わが家の味が並ぶ食卓を囲み、未来につながる生涯現役のまち」を目指しています。
そんな革新的な農業方法をめぐる臼杵市の人々を映し出し、ドラマを織り込みながら自然との共生を描いた映画『100年ごはん』も話題に。そしてその『100年ごはん』を見て農業を志し、臼杵市に移住した農家さんがいると聞き、会いに行きました。
「高校まではサッカー、大学ではラクロス部に所属し、主将も務めました。もともと体を動かすことが大好きで、就職するなら体を動かす大工や漁業、農業に携わりたいと思っていたんです。そんなときに『100年ごはん』で臼杵市の存在を知り、これだ!と思い、導かれるようにこの地を訪れました」
そう話すのは、〈槌本農園〉の槌本俊貴さん。うすき皿山のコースでいただいた緑茄子やオクラ、甘長唐辛子、そうめんカボチャなどの夏野菜は、槌本さんから届けられたものです。
当初は農業ど素人だったという槌本さん。鍬の握り方も、トラクターの乗り方もわからないところから始めたといいます。2016年から地域おこし協力隊の農業研修生として3年間経験を積んだのち、槌本農園として独立し現在に至ります。
「槌本農園の野菜づくりは、“ありのまま”を基本としています。畑で葉っぱの状態を確認し、収穫した野菜で土壌の変化を観察しています。畑でちぎって自分の舌で確認し、収穫に最適なタイミングを見極める。環境にも体にも無理のない、おいしくてやさしい野菜を提供したいと考えています。
幸いなことに、いまの少人数体制では出荷が追いつかない状態でもあります。今後は人材の雇用や育成まで視野に入れて、チームで取り組む農業にも力を入れていきたいと思っています」
単身乗り込んだ臼杵の地に根を張り、おいしい野菜づくりに全身全霊を注いでいる槌本さん。研修生時代からおつき合いがある宇佐美さん夫妻は、大切な取引相手であり、野菜づくりを始めた当初から見守り続けてくれている、尊敬できる存在でもあると話します。
「宇佐美さんは、僕らつくり手が気づかないような野菜の素材の引き出し方を知っているので、野菜の奥深さを教えてもらい、とても勉強になっています。『こういうものない?』とか『オクラの花が咲く前のものが欲しい』など、新しい野菜の提案やご意見をたくさん言ってくれるので、そのひとつひとつに応えるのも楽しいですね」
おいしい野菜をつくる人、それを受け取り丁寧に調理する人、それをおいしくいただく人がいて、次の世代、次の次の世代へも受け継がれていく。臼杵市では、まさに100年続くごはんのバトンが、いまもどこかで巡っているようです。
credit text:西野入智紗 photo:木寺紀雄