盛りざるからかごバッグまで、
別府竹細工の日用品。
竹職人・大谷健一さん
“何でもつくれて、何でもつくれるわけじゃない”のが魅力です
「野菜のざるからアートピースまで、“何でもつくれて、何でもつくれるわけではない”のが別府の竹細工です」と笑いながら話すのは、別府竹細工の伝統工芸士・大谷健一さん。禅問答のようなこのひと言の真意はいかに? 今回訪ねたのは別府の〈studio 竹楓舎(ちくふうしゃ)〉。あちこちから湯けむりが立ちのぼるまちにある、静かで心地いい工房です。
工房には、思わず手に取りたくなるかごやざるがたくさん。「タマネギやジャガイモをのせるのにぴったり!」「眼鏡やマスクを入れてリビングや玄関に置いたら便利かも」「このかごバッグならワンピースにも着物にも似合うはず」。目にした瞬間、使い方があれこれと頭に浮かびます。
どのデザインもモダンで親しみやすく、普段の暮らしにすぐなじみそう。つるつる、ツヤツヤの手ざわりも気持ちいいし、とても軽やかなのに圧倒的な安心感もある。モノも暮らしもしっかりと支えてくれそうな、頼もしさが感じられるのです。
強くてしなやかな大分産の真竹を使い、繊細で力強い日用品や工芸品を生み出す「別府竹細工」。その始まりは室町時代の行商かごだと言われています。さらに江戸時代、別府が温泉パラダイスとして有名になると、湯治客が滞在中に使う竹の飯籠やざるが数多くつくられるようになりました。
山で採った竹を手で割り、薄く剥ぎ、極細のヒゴにして編んでいく――すべての工程を人の手で行うこの手仕事は、その美しさや丈夫さもさることながら、「自然そのものを手にしているような、やさしくたくましい触り心地」も大きな魅力です。
明治時代には温泉街の土産物や生活道具として人気を博した一方で、昭和に入ると竹工芸の名人・生野祥雲斎(しょうのしょううんさい)が人間国宝に認定。アートとしても高く評価されるようになりました。
そんな別府の地で、「日常の暮らしを少し豊かにする竹工芸を手がけたい」と考えたのが大谷さん。日本で唯一、竹工芸の技を専門的に習得できる〈大分県立竹工芸訓練センター〉で学んだあと、伝統工芸士に師事。2005年にstudio 竹楓舎を立ち上げました。
現在は、竹職人の一木律子さん、網中聖二さんとともに工房を運営。ニューヨークやアムステルダムで展示会を開くなど、海外にも活躍の場を広げています。
「竹細工そのものは東南アジアや中国など国内外の各地にあり、奈良の淡竹(はちく)や鹿児島の孟宗竹(もうそうちく)など、土地によって竹の種類も変わります。そのなかでも強くてしなやかなのが大分の真竹。これを1ミリにも満たない極細のヒゴにすることで、シンプルなかご編みはもちろん、複雑な編み込みもできる。編み方だけでも200種類以上あるんですよ」
そう、だからこそ別府の竹細工は、大谷さんが冒頭で話したとおり“何でもつくれる”のです。では、“何でもつくれるわけではない”のはどうしてなのでしょう。