〈ザ・キャビンカンパニー〉
廃校アトリエからおとぎ話を紡ぎ出す
絵本作家ユニット | Page 3
大分駅のホームに出現した謎の怪物が日本中の話題に!
1月、「JR大分駅のホームに謎の怪物が現れ、ホームの一部を占拠している」というTwitterでの投稿が、日本中で話題となりました。禍々しいこの怪物の正体……それはザ・キャビンカンパニーの作品『キメラブネ』でした。
大分駅の禁煙化にともない、ホームに設置された喫煙スペースが閉鎖。そこを何かに活用できないかと大分県立美術館(OPAM)とJRが相談し、大分ゆかりのアーティストの展示スペースとして再利用されることとなったそうです。
「それで、私たちのところに美術館の方から『OPAM』をテーマに作品をつくってほしいと依頼がきたんです」(紗希さん)
大分駅は県内外の人々が出入りする玄関口。大分はその昔、西洋の南蛮文化が入ってきた場所でもあり、異文化を受け入れる土壌が培われていたことを作品づくりのヒントにしたといいます。
「大分には大友宗麟というキリシタン大名がいたんですが、彼はなかなか先進的な武将で、西洋から南蛮文化を積極的に取り込んでいました。そのため16世紀の大分(府内)のまちには、虎や象や孔雀などの珍しい動物が歩いていたという文献を読んだんです。当時の人々はどういう気持ちでその動物を見ていたんだろうって、妄想が膨らみましたね」(健太朗さん)
喫煙スペースの箱を船に見立て、見たこともない目新しい怪物(虎・象・孔雀のキメラ)が大分の玄関口に運ばれてきたという『キメラブネ』。
「美術館に行くと、国や時代を超えた多種多様な芸術・文化を見ることができます。それらが私たちの頭の中で自由に交易し、混ざり合い、作品が生み出されていくんです。南蛮文化とOPAMの共通点を見つけて作品化したのが、あの『キメラブネ』なんです」(紗希さん)
「大友氏館跡庭園も復元整備をしていますし、その文化的な盛り上がりに僕らも貢献できたらいいなって。初めて西洋音楽が流れたのも大分で、初めて西洋医学を用いた手術が行われたのもここ大分です。そんな南蛮文化発祥の地としての大分を、この作品を通して感じてもらえたらうれしいです」(健太朗さん)
大分県に生まれて大分県で暮らしてきたふたりだからこそわかる、まだまだ知られていないこの場所のいいところ。これからもザ・キャビンカンパニーは、作品を通して大分の隠れた魅力を教えてくれる、唯一無二のアーティストになってくれることでしょう。
阿部健太朗(由布市生まれ)と吉岡紗希(大分市生まれ)による絵本作家・美術家ユニット。絵本を中心に、立体作品、デザイン、舞台美術など、多彩な作品を発表。デビュー作『だいおういかのいかたろう』で第20回日本絵本賞読者賞受賞。おもな著書に『しんごうきピコリ』『ボンボとヤージュ』『ねんねこ』など。各地での展覧会など、精力的に活動中。
credit text:川上靖代 photo:木寺紀雄