自家製レモングラスオイルを全国へ。
〈レストラン サルディナス〉
香内宏文さん&香内リツコさん | Page 3
加工品がつなぐ移住者や農家とのネットワーク
大分に移住したことで、これまでの価値観や目標が大きく変わったと香内さん夫妻は言います。
「那須塩原でレストランをしていた頃は、レストランを拡大するにはどうしたら稼げるか? そんなことばかり考えていました」(宏文さん)
震災と原発事故を機にその考えも一変し、そこからしばらくはお金を稼ぐことや消費することを前向きに考えられなくなり、しばらくは「稼がない」生活を続けていましたが、徐々にその生活が自分たちの可能性を狭めているような気持ちになったと言います。
「私たちはもともと自分たちの力を発揮していきたいって考える性格なんです。でも、稼がない生活はずっと現状維持が続いている気がして、つまらなくなってしまったんです」(リツコさん)
「それにお金を稼ぐことは決して悪いことではなくて、大切なのはそのお金の稼ぎ方、使い方なんだなって思うようになったんです」(宏文さん)
ふたりは稼がない暮らしから、チャレンジする暮らしへ切り替えようと一念発起!
キャンプ場でやっていたレストランを現在の場所に移転させ、レモングラスオイルやヤバスコなどの加工品にも力を入れることにしたそうです。
「この辺りは、どうしても気象条件や災害によってお客様が減ってしまうんです。こういう場所で自分たちが暮らしていくためには、レストランだけでは難しい。加工品をもっといろんなところに卸して、何かあったときにもそういう収入をしっかり得られるようにしようと思って。それまでは自分たちだけでつくっていたのですが、スタッフも入れて、もっときちんとやっていこうって」(宏文さん)
それまで加工品は自分たちだけでつくっていましたが、どうせたくさんつくるならと周囲の人たちを巻き込むことに。輸入物に頼っていたレモングラスは、近隣で有機農業を営む若い農家さんに生産をお願いし、加工から瓶詰めまでの作業は、同世代の主婦の人たちに時間があるときに来てもらってできるようにと、作業工程にも工夫を凝らしたそう。
「近くの農家さんが原料を生産し、近所の主婦の人たちが加工する。それを自分たちが販売して収入が生まれる。その循環で支え合うことがやりがいにもつながりますし、とてもいいと思ったんです」(宏文さん)
サルディナスの今後についておふたりに尋ねると、さらに加工品に力を入れていきたいという答えが返ってきました。
「加工品の販売先や出荷数が増えれば、製造に携わってくれている周りの人たちや若い農家さんたちの生活の安定にもつながりますし、移住を考えている人の後押しや手助けにもなったらいいなと思っています」(宏文さん)
現在、レモングラスオイルをはじめとする自家製調味料の取り扱いは全国に約50店舗あり、徐々に拡大中。さらに、新商品にも意欲的で、レモングラスの葉から抽出したエッセンシャルオイルを使ってルームスプレーを開発中だとか。
穏やかでやさしい口調の中にも強い芯を感じさせる香内さん夫妻。サルディナスの加工品が大分県を代表する逸品として全国にその名を轟かせる日も、そう遠くないかもしれません。
福島県福島市生まれの宏文さんと栃木県那須塩原市生まれのリツコさん。那須塩原市の名店〈1988 CAFE SHOZO〉で働いていた宏文さんと、実家のガレージを改装してアジア料理店〈アジア食堂 籠〉を営んでいたリツコさんは2003年に結婚し、宏文さんもリツコさんの店で働くように。2011年に大分県中津市へ移住。2019年、中津市耶馬溪に〈レストラン サルディナス〉をオープン。リツコさんは料理教室〈BUENA VISTA〉を主宰。
*価格はすべて税込です。
credit text:川上靖代 photo:木寺紀雄