本を詰めたりんご箱
連載|あの人に会いたい!

“山が香る”地で始めた新しい暮らしと民泊。
〈山香文庫〉牧野史和さん&鯨井結理さん | Page 2

Posted 2024.03.29
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部屋部屋に置かれた本の数は
4000を超えて増殖中

主に中学生を受け入れている農村民泊では、茶畑に出たり、ほうじ茶づくりをしたり、自生する植物を採ったり、湧き水を汲みに行ったり。牧野さんと鯨井さんが日々行う農作業の一部を一緒に体験することができます。

「大人の方で農業体験を希望される方はほとんどいらっしゃらないんです。ご希望があればもちろん、たとえばほうじ茶づくりだけでもご一緒することが可能ですが、どちらかというと日常から距離をおいて、ゆっくり散歩したり、本を読んだり、景観や空気を楽しみにいらっしゃる方が多いですね」(鯨井さん)

談笑中の鯨井さんと牧野さん

1泊、2泊、3泊と連泊して、そのほとんどを室内で過ごすゲストがいるというのも納得の、ゆったり静かな時間が流れる場所。そんな時間のお供になるのが数千冊もの本です。

ベッドルームにつながるライブラリーと呼ばれる部屋だけでなく、リビングにも、ダイニングにも、そこかしこに木箱が置かれ、日本の各地から近隣の小学校まで、さまざまなところから寄贈された本に、ふたりの蔵書が混じり合っています。

本を詰めたりんご箱が天井から吊り下げられている
本を詰めたりんご箱、茶箱などが部屋のあちこちに置かれています。

「民泊と同時に、地域の子どもたちのためのオープンスペースとして場所を開放したいという想いがあって。放課後に集まったり宿題を教え合ったりする空間になったらいいなと考えたら、じゃあ本がないと! となりました。本の寄贈を広く呼びかけたわけではないんですが、お会いしたことのない方からお手紙をいただいて蔵書を譲り受けたり、廃校になった学校の図書館から本がやってきたりして、いつの間にか4000を超える数になりました」(牧野さん)

絵本、児童文学、図鑑や全集、写真集。小説、エッセイ、ルポルタージュ、新書に、思想や評論、哲学の本。田中泯のサインが入った写真集のように存在感抜群の本もあれば、静かに佇む詩集や歌集もあります。

「私たちふたりが民俗学に興味があると知って、この地域にまつわる資料や論文を贈ってくださる方もいて、ますますこの土地に興味が湧くんです」(鯨井さん)

大分や国東についての本が並ぶコーナー
大分県や国東半島についての本も集まってきます。
田中泯さんのサイン入り写真集
牧野さんが大好きだという田中泯さんのサイン入り写真集。

おふたりのおすすめ本をうかがってみたところ、鯨井さんはレイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』を選んでくれました。実はこれ、本棚のあちこちに3冊あったという、鯨井さんの人生の愛読書。

レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』を手にする鯨井さん
環境問題にいち早く警鐘を鳴らしたことで知られるレイチェル・カーソンの遺作。「神秘さや不思議さに目を見はる感性」の大切さを教えてくれます。

「これまで10冊以上購入して、いろんな人に贈りました。この本に出合ったからいまここで暮らしているのかもしれない、そう思うほど私にとって大切な本です。大学の授業で出合い、自分の興味の芯にあるものに気づくきっかけにもなり、いまの活動を考えるうえでのベースにもなっています」(鯨井さん)

牧野さんが迷いに迷って選んだのは、西尾勝彦の詩集『言の森』と、大西文香の写真集『Echoing yours』。

西尾勝彦の詩集『言の森』と大西文香の写真集『Echoing yours』を手にした牧野さん

「『Echoing yours』は、写真家の大西さんが、フィルムカメラで撮影した光たっぷりの作品を集めた500部限定の写真集。山香町のグラフィックデザイン事務所〈山香デザイン室〉の小野友寛さんが手がけた美しい一冊です。本をつくっている間、大西さんも何度もここに遊びにきてくれました。『言の森』は、僕らふたりがいま一番会いたい人、詩人の西尾勝彦さんの詩集です。表題の詩だけでも読んで、味わってもらえたら」(牧野さん)

西尾勝彦の詩集『ふたりはひとり』が並ぶコーナー
ジャンルレスな本棚は眺めているだけでも楽しい。ふたりが愛読する西尾勝彦の詩集『ふたりはひとり』も。

テーブルに向かい合って座り本について語る、牧野さんと鯨井さん
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