東京でのキャリアを生かして
佐伯に〈cafe KOYOMI〉をオープン。
増村夢香さん | Page 3
佐伯で手に入れた、自分らしいライフスタイル
佐伯のまちは、とても暮らしやすいと夢香さん。いまはどこにいてもネットで買い物もできるし、ここは主要な場所にもアクセスしやすい。自然も多く、子育てもしやすいのだそうです。
「昔よりは少子化になっていると思いますが、周りを見ると、子どもが3、4人いる人も珍しくありません。産んで育てやすいからでしょうね。中学までは医療費が無料というのもありがたいです」
食べもののおいしさも魅力。魚がとにかくおいしく、夢香さんも東京にいた頃よりよく食べるようになったそう。ふつうのスーパーでも新鮮な魚や地元で採れる野菜がたくさん並んでいるという、とても恵まれた環境であることが、夢香さんの話ぶりから伝わってきました。
さらに、和彦さんは自ら畑で野菜を栽培しているそう。実は和彦さんは、祖父の仕事である不動産業を継ぎながら、自宅とは別にスタジオをつくって音楽制作をし、東京での音楽の仕事も続けています。その傍ら、畑仕事をし、自分たちが食べる野菜や、お店で出す野菜もつくっているのです。なんて理想的な暮らし……!
「彼も、20代の頃は実家に帰ることは考えていなかったと思いますが、祖父に帰ってこいと言われて、どうしたら音楽を続けられるか、自分なりの方法を探っていたのだと思います。いつの間にか時代に合った生き方ができるようになっていましたね」
いまではカレーに使う野菜はほとんど自家製。唐辛子もつくっているのだとか。また、生姜もつくっていて、お店で販売している人気商品のジンジャーシロップも、旬の数か月間は自家製の生姜を使っているそう。ただ、そんなこともあまり表立って謳ってはいません。
「隠しているわけではないですが、ナチュラルにそういう店になっていったらいいなと思っています。スコーンの小麦粉も国産ですが、全部オーガニックなどにこだわったりするわけではなく、自然においしいものを、買いやすい値段で提供したい。でも実は朝採れ野菜を使ってますよ、くらいの自然体でやっていけたら」
まさに夢香さんの自然体のスタイルが、お店にも表れているようです。そしてこれからは、同世代のお母さんたちの役に立てるようなことができないかと考えているそう。
「私も子育てをしていて同世代の友だちもできましたが、働くお母さんたちはみんなとても大変そう。うちは旦那さんの実家がとてもよく協力してくれますが、両方の実家に頼れない人もいます。そんなお母さんたちがちょっとひと息つけるような、ほっとできるようなことができないかと思っています」
たとえば仕込みをしながらお店を開放して、子どもをそこで遊ばせながら、ママ同士で他愛のないおしゃべりをしたり。夢香さんはいつもどおり仕事をしながら、お母さんたちのちょっとした逃げ場のような、心落ち着ける空間を提供することはできるかもしれない、そんなことを考えているそう。それができたら、KOYOMIはますます地域にとってかけがえのない場所になっていきそうです。
東京で必死に夢を追い、夢中で働いた経験があったから、いまがある。そんな夢香さんの笑顔は、とても輝いて見えました。
最後に、KOYOMIの名前の由来について、教えてくれました。和彦さんの祖母の名前がみよこさんで、それを逆さ読みにしたというのがひとつ。
「もうひとつは、暦とかカレンダーってふだん何気なくあるけれど、絶対必要なものですよね。当たり前のようにあって、ふらっと立ち寄れるような、そんなお店になれたらいいなって。いろんな人にとって、生活のなかにいつも自然にある場所でありたいです」
栃木県出身。東京の短大に進学し、卒業後カフェ〈Sign〉で働き始める。代官山店店長などを経て、フードスタイリスト飯島奈美のアシスタントに。その後、〈スマイルズ〉に入社、二子玉川の〈100本のスプーン〉立ち上げなどに携わる。2016年に夫の実家のある佐伯市へ移住。2017年6月に〈cafe KOYOMI〉をオープン。1児の母。
*価格はすべて税込です。
credit text:榎本市子 photo:在本彌生