人口12人の離島で、
日々の暮らしを生業に。
〈でぃーぷまりん〉
安部あづみさん&安部達也さん | Page 3
猫を守り、島伝統の味噌のレシピを守る
深島は猫の多い島としても知られています。2023年10月現在の人口12人に対して、猫はおよそ70匹。島に上陸して真っ先に出迎えてくれたのはキジトラの猫でした。1歩、2歩と進むうち、あちらこちらから猫が現れたり、ベンチや縁側の下に潜んでいたり。猫たちの毛並みはふわふわと柔らかく、大切にされていることが伝わってきます。
猫の数が多いのは、民家が集まる島の中心部。道のそこかしこで猫がくつろぐ姿が見られます。
深島みその工房前、広々とした芝生や港への道沿いにも猫がたくさん。かけっこしたりじゃれあったり、ごはんや水を分け合う姿に和みます。工房脇を登っていく「北のにゃんにゃんロード」にも、猫たちが待っています。
360度を海に囲まれた深島では、長い間猫が増え続けました。猫の健康を少しでも守り、猫のお世話をする島の人の負担を減らすためには、と考えたあづみさんの主導で、2019年に全頭去勢手術が行われました。
「地域猫や保護猫の活動をされている方、〈どうぶつ基金〉の方々、動物病院の先生方にも相談しながら、去勢手術に踏み切ることにしました。猫をかわいがっている島のみんなにも説明してまわって。島の人はもちろん、たくさんの方のおかげで実現することができました」(あづみさん)
この11月には全頭の健康調査も予定しているそう。みんなが家族のように暮らしている小さな島だからこそ、信頼関係をベースに「島の猫」として猫たちをかわいがり、お世話をすることができる。あづみさんは、さまざまな機関と連携し、地域と猫が共存する新たなモデルケースとして情報を発信していきたいと考えています。
「猫が生きていくためには、キャットフードが必要です。去勢手術やワクチン接種にももちろんお金がかかります。そこで、佐伯市の観光協会と一緒に『深島ねこ図鑑』をつくり、その売り上げを資金に充てました。たくさんの方に支援していただいていて、島民だけでなく島の猫たちを想うみなさんとともに猫の暮らしを守っています」(あづみさん)
深島にはシーカヤックやシュノーケリングなどを目当てにした来島者も多く、達也さんは海遊びのガイドも務めています。そしてもうひとつ、来島者の多くがお土産に買って帰る深島みその製造・販売も安部さん夫妻によるもの。
代々島の家庭でつくられてきた麦味噌が、島の特産品として商品化されたのが1996年。達也さんの祖母を含む島の婦人部のレシピを、いまはおふたりが受け継いでいます。
「味噌はばあちゃんたちがつくっていたもので、これが好きだって言ってくれる人がいるし、島の産業としてこの味噌が残っていることで人がここに住み続けられた。そういう意味でもばあちゃんたちにはすごく感謝しています」と、あづみさん。
「この島で過ごす時間やこの景色が贅沢だと気づけるのは、お客さんとの関わりがあってこそ」と言葉を続けます。2014年の食堂オープン時から長く通う常連さんも多い深島では、お互いの家族の話をしたり、子どもたちの成長を見守ったり。接客する側とされる側ではなく、いつしか親戚のようなつき合いになっていくのだとか。
「私たちも、あの人はこれが好きだったね、この体験に感動していたね、というのをひとつひとつ覚えておけるくらいの関わりを持ちたいと考えています。子どもにとっても、大人にとっても、疲れたときに深島に行こう、深島で元気になろうと思い出してもらえる場所でありたいですね」(あづみさん)
1988年大分県由布市生まれ。広島大学で農業経済を学び、大分大学大学院で修士号を取得。2014年から深島に通うようになり、16年結婚を機に深島に移住。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。3児の母。
*価格はすべて税込です。
credit text:鳥澤光 photo:木寺紀雄