トンネルホテル
連載|あの人に会いたい!

愛する耶馬溪のよさを
グッドアイデアで届ける
アートディレクター/デザイナー福田まやさん | Page 3

Posted 2021.05.18
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前代未聞の「耶馬溪トンネルホテル」

デザイナーとしてのまやさんの評判は地元の仕事が増えるにつれて少しずつ広がり、移住者代表としてシンポジウム登壇の依頼がくるほどになりました。

「そのときに中津土木事務所の方から、耶馬溪道路の開通イベントのいいアイデアないですか? と言われて。開通したら大分県で一番長いトンネルになる、そのトンネルをホテルにする“トンネルホテル”の企画書を持って行ったんです」

しかし、前代未聞で突飛な企画……すんなり開催というわけにはいかず。だけどここで諦めるまやさんではありません。

「こんなにおもしろい企画はないと思ったし、耶馬溪の名前を全国に届けるチャンスだと思ったので、どうしてもやりたくて。なんとか予算の半分を県の補助金でまかなえることになったので、残りはクラウドファンディングで集めることにしたんです」

クラウドファンディングページ
クラウドファンディングは無事目標額を達成!

企画当初はトンネルの中に宿泊ブースを設置してはどうかと考えていましたが、消防法など法規的に難しい問題もあり、トンネルの中には樹齢200年以上の耶馬溪の樫の木のテーブルや、地域の木材でつくられた食堂やDJブースなどをつくることにし、宿泊はトンネルに続く橋にキャンピングカーを並べました。

トンネル内のイートインスペースやバー
左側の食堂のテーブルの天板は、耶馬溪の古寺「桧原山 正平寺」の境内で育った樫の木(樹齢200年超)を修繕用に伐採・保管されていたものを特別にご住職にお借りしたもの。(写真提供:耶馬溪トンネルホテル実行委員会 撮影:谷知英)
イベントで提供された食事
耶馬溪で有機農業を半世紀近く続ける〈下郷農協〉の新鮮な野菜や牛乳が、〈USAMI finefood and cuisine〉の料理家の手によって、目にもおいしい華やかな料理に変身。(写真提供:耶馬溪トンネルホテル実行委員会 撮影:谷知英)

当初の予定と違っていてもそこは臨機応変に。企画発案からイベント開催まで、かなり短い期間でなんとかやりきったまやさんは「大変でしたが、それはそれでかなり濃い日々を過ごせました」と、笑います。

まやさんやスタッフたちの奔走の甲斐もありイベントは大成功! 「これまで耶馬溪という場所を知らなかった人たちにも予想以上のイベントだったという感想がもらえました」と、まやさん自身も大満足。

食事を楽しむ参加者
耶馬溪トンネルホテル、イベント当日の様子。トンネル内の建造物などの設計は建築家の佐野文彦さんによるもの。(写真提供:耶馬溪トンネルホテル実行委員会 撮影:谷知英)
キャンピングカーがずらりと並ぶ
耶馬溪トンネルホテルでの朝。キャンピングカーの外には、まやさんが子どもの頃に見たのと同じような朝霧の風景が広がる。(写真提供:耶馬溪トンネルホテル実行委員会 撮影:谷知英)

「浮世絵にも描かれた耶馬溪は、大正時代にはわざわざ人力車で観光に訪れるような憧れの場所だったみたいです。道路が舗装されて車で来れるようになってからは、みんな日帰りが当たり前ですよね。もちろん昼間の耶馬溪は気持ちいいけど、今日みたいに地元の人たちと一緒にごはんを食べてもらって、日が陰って暮れていく耶馬溪もぜひ体験してもらいたい」

今後は1日を通して耶馬溪の良さを知ってもらえたらと、仮設ホテルを使ってできる特別体験イベントを継続的にやっていきたいそうです。

「この辺りは蛍がめちゃくちゃ多い場所なので、そこで蛍を眺めながら泊まってもらうプログロムや、耶馬溪の山奥の川にある大きな一枚岩の上でお酒を飲む会とか……むちゃくちゃ楽しそうじゃないですか?」

耶馬溪愛にあふれたまやさんのアイデアは尽きません。おもしろそうな耶馬溪でのイベントの話が聞こえてきたら……それはきっとまやさんの仕業です。

福田まやさん
Profile 福田まや

1985年、奈良県生まれ。アートディレクター、デザイナー。Inter Medium Instituteで学び、東京の広告代理店などを経て、2012年に大分県中津市の耶馬溪に移住。デザイン事務所〈星庭〉を設立し、さまざまな商品やプロジェクトのアートディレクションやブランディング、ロゴデザインなどを手がける。自ら企画した開通直前のトンネルを使った宿泊体験イベント「耶馬溪トンネルホテル」を2021年2月に敢行。耶馬溪を楽しくするため活動中。https://www.hoshiniwa.com

credit text:川上靖代 photo:木寺紀雄

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