しいたけカットステーキ串
連載|おおいた食手帖

生産量日本一! 大分県の乾しいたけ専門店
〈やまよし〉に聞く
その魅力とおいしい活用術

Posted 2024.07.05
Instagram X Facebook

大分県の名産として知られる「乾(ほし)しいたけ」。県内生産量は全国の約半分を占めるうえに、品質も高く、日本椎茸農業協同組合連合会主催の品評会では、大分県が24大会連続、56回目の団体優勝(2023年)をおさめています。

県内の数ある乾しいたけ専門店の中でも、かわいらしい佇まいの店舗とユニークな商品開発で注目を集める別府市の〈やまよし〉を訪ねました。

〈やまよし〉の店舗外観
〈やまよし〉は別府駅から徒歩約7分、青山通り沿いにあります。もともと市場と直売所だった場所を2017年にリニューアル。店舗デザインは〈DABURA.m〉光浦高史さん、ロゴはデザイナーの福田まやさんによるもの。

トップブランドに輝く理由は、
大分県の風土が育む良質のクヌギ

大分県産乾しいたけの専門店やまよしは、今年で創業60年。昭和41年に、現在の3代目にあたる河内由揮(かわちゆうき)さんの祖父が、県内のしいたけを扱う入札市場の運営をスタートしたのが始まり。現在は小売と市場運営のほか、もともとしいたけ農家の家系だったノウハウを生かし、栽培から加工までも手がけています。

まず、河内さんが案内してくれたのは、別府の中心地から車で約20分ほど離れた静かな山の中。車を降り、道路の脇に延びる細い山道をしばらく歩いていくと、森の一角にずらりと組まれたクヌギの丸太群が見えてきました。

森の中に設置されたクヌギの丸太群
しいたけの収穫は年に2回。2~4月に採れたものは春子、10~11月に採れたものは秋子と呼ばれ、駒打ち(しいたけの菌種を打ち込むこと)すると、約3年間その木からしいたけが採れるそう。

大分県では、このクヌギの木を活用した原木栽培が一般的。大分県の森林面積率は約71%もあり、昔から天然のクヌギが豊富に自生していたことが、一大産地となった要因のようです。

さらに、全国の中でも九州のクヌギは栽培にとても適しているそうで「しいたけは木の樹皮と幹の間に菌糸を張って育ちます。寒い地域のクヌギは樹皮が厚いので育ちにくい。それに比べ、西日本は暖かい気候のため樹皮も厚すぎないので、しいたけも育ちやすいんです」と河内さんは言います。

やまよし3代目の河内由揮さん
やまよしの3代目、しいたけ愛あふれる河内由揮さん。家業を継ぐ以前は東京で10年ほどバンドマンとして活動していたという異色の経歴の持ち主。アーティストらしいセンスと自由な発想で商品開発にも意欲的に取り組んでいます。

江戸時代以前は栽培する方法がなかったため、木に自然発生したしいたけを収穫していました。そのため、とても貴重な食材として扱われていたようで、しいたけの群生を見つけた人は金持ちになれるといわれていたそうです。

その後、大分県で人工栽培の方法が開発され、栽培者たちの長年のノウハウの蓄積から、現在のように安定したしいたけ栽培が可能になりました。

とはいえ、ただ木を切ったクヌギに駒打ちを施せば、すぐにしいたけが生えてくるというわけではありません。

河内さんの話によると、まず伐採した木は30日間水抜き作業を行い、そこから均等な長さに断裁した丸太に駒打ち作業を行います。駒打ち後は木を組むように立てかけ、その後は日光が当たらないように傘をかけ、その上から葉っぱをかけて寝かせます。

そこから約1年半をかけて菌種は樹皮と幹の間に菌糸を張り、しいたけが発生する……というように、準備から収穫までにはなかなか手間と時間がかかるようです。

収穫後のクヌギの丸太にある駒打ちの跡
訪れたときはちょうど収穫のシーズンが終わったばかり。収穫後のクヌギの丸太をよ~く見ると、駒打ちの跡がところどころにありました。ここから縦に菌糸を張りめぐらせ、しいたけが育つそうです。

駒打ちする菌の種類はなんと100種類以上もあるそうで、河内さんたちは低温で育つ「115(いちいちご)」という品種の低温で育つ菌を選んで打ち込んでいます。

「115は、肉厚でやさしい甘みが特徴です。噛むととても弾力があって、別名“山のアワビ”なんて言われています。冬に原木の栄養を吸収しながら時間をかけて育つので味も香りもいいんですよ」

クヌギの丸太群の中を進む河内さん

ここで収穫されたしいたけは、専用の乾燥機に入れて約24時間乾燥させ、大きさと形で選別され、パッケージ作業を経て店頭に並びます。

パッケージングされた〈うまみだけ〉
大分県産乾しいたけブランド〈うまみだけ〉。「115」のほかにもやさしい香りの「ゆう次郎」や芳醇な香りの「193(いちきゅうさん)」など数種類のラインナップがあり、手ごろな量と価格帯で買うことができます。

傘が開いた乾しいたけがたくさん箱に入っている
Next Page|意外と知らない、戻し方のコツ

この記事をPost&Share
X Facebook